ニュースの概要
フィリピン観光省は、次の成長を担う観光資産として、ブランド系の高級ホテル、統合型リゾート、ウェルネスや長寿を掲げた滞在拠点、会議・展示施設、環境に配慮したリゾートなどを後押しする方針を示した。狙いは、訪れる人の数を増やすことだけではない。滞在日数を延ばし、1人あたりの支出を引き上げる高付加価値の市場へ軸足を移すことにある。対象分野には、健康増進、長寿、退職後の移住、スポーツ、ハラール(=イスラム教の戒律に沿った食事やサービス)、農村やエコツーリズムも含まれる。フィリピンの経済紙マニラ・タイムズが報じた。
引用元: フィリピン、観光成長戦略の中核にウェルネス・ロンジェビティを位置付け(The Manila Times)
分析・見解
来訪者の数より、1人が使う金額を伸ばす発想
フィリピンの観光は長く、海辺のリゾートとダイビングを軸に「来た人の数」を競ってきた。しかし数を追う戦略には限界がある。島ごとの宿泊施設には上限があり、混み合えば環境への負担も増す。そこで観光省が選んだのは、同じ客数でも売上が伸びる道だ。滞在日数に1人あたりの消費額を掛け合わせた総額で、観光を測り直す発想である。
数字の見方が変わると、投資先も変わる。安い宿を大量に増やすより、長く泊まり、よく使う客を呼べる施設に資金が向かう。今回挙がった項目は、その方針で一本につながっている。
一見ばらばらな項目に通う「滞在を延ばす」共通点
高級ホテル、統合型観光開発(=宿泊、商業、娯楽、会議を一か所にまとめた開発)、会議・展示施設、ウェルネス、リタイアメント。並べると雑多に見えるが、役割は分けられる。高級ホテルは単価を上げる。統合型開発は、滞在中の消費を域内にとどめる。会議・展示は、観光の閑散期や平日を埋める。そしてウェルネスや長寿、リタイアメントは、数日から数か月、時には年単位へと滞在を延ばす。
ここに私は、この戦略の独自性を見る。目玉を一つ作るのではなく、需要の谷を互いに埋め合う組み合わせとして設計している点だ。ビーチ客が減る雨季に、会議客や療養客が入る。収益が季節に左右されにくくなれば、宿泊施設の資金調達も楽になる。
タイやマレーシアと比べた強みと弱み
競合は強い。タイは医療とウェルネスを組み合わせた誘客を早くから進めてきた。マレーシアは長期滞在ビザの制度で、退職者を呼び込んできた。ハラール対応でも、マレーシアやインドネシアが先行する。
フィリピンの強みは、英語が広く通じること、そして看護師や介護人材を世界に送り出してきた実績にある。一方で弱みは、空港や島間の移動、電力や水といった基盤整備だ。長期滞在者ほど、こうした不便に敏感である。リゾートの内側だけを整えても、体験は完成しない。
「長寿」を名乗るなら、効果の見える化が欠かせない
ウェルネスは気分の良さで売れるが、長寿は違う。成果が出るまで数年かかり、検証もしにくい。根拠の薄い宣伝が広がると、地域全体の信用が傷つく。
だからこそ、睡眠、血圧、血糖値、体力測定などを入国時と帰国後に追い、数値で示す仕組みが要る。観光と医療の境目に当たる領域は、各国で規制も異なる。プログラムの中身を誰が保証するのか。この問いに答えられる地域だけが、高単価を維持できるだろう。
ビジネスへの影響
日本企業が入り込める場所は、機器より運営の知恵
長寿志向の滞在施設は、建物だけでは成り立たない。睡眠や栄養の指導、体力測定、結果の記録と共有、温泉や森林を使った回復プログラムといった運営の中身が価値を決める。日本企業には、予防医療の検査機器、健康データの管理、温浴や食事の設計など、持ち込める資産が多い。
現実的な入り口は、現地の開発会社やホテル運営会社との提携だ。単独で施設を持つより、プログラム設計や人材研修を提供し、売上の一部を受け取る形のほうが、初期投資と為替の影響を抑えられる。
投資や出店の判断で確かめたい三つの点
一つ目は、客単価と平均滞在日数の実績だ。構想段階の数字ではなく、すでに営業している類似施設の値を調べる。二つ目は、雨季や平日の稼働率である。ここが低ければ、全体の収益は不安定になる。三つ目は、制度と基盤だ。外国人の長期滞在に関するビザ、医療行為に当たる範囲の規制、電力や水の供給、空港からの移動時間を確認したい。
小さく始めて、効果の記録を資産にする
最初から大型施設を狙う必要はない。数十人規模の短期プログラムを試し、参加者の変化を数値で残す。その記録が、次の提携交渉でも、日本国内での集客でも使える資産になる。観光省の方針が追い風でも、実際に選ばれるのは、成果を示せる事業者だけである。